アゴ・・それは隠れた流行病

【第114回ブログ】「アゴ・・それは隠れた流行病」と題する本に対して、矯正歯科医会の立場からプロフィット先生とアッカーマン先生が苦言を呈しました。その議論の要点を、賛成と反対の意見からみてみました。

歯科矯正の専門開業医であるサンドラ・カーン先生と、文化人類学者のポール・エルリッチ教授が共同で執筆した著書「アゴ・・それは隠れた流行病」を出版しました。その本に対して、歯科矯正学の教授であるウィリアム・プロフィット先生とジェームス・アッカーマン先生が、下記のように指摘しています。

サンドラ先生とポール先生の対談は、NPOアマポーラオーソの Youtube 動画でご覧いただけます。以下の URL からお進みください。 https://www.youtube.com/watch?v=tY7h9_nn0Rk&t=18s

歯並びの悪さは文明発展の結果なのか? 

400年以上前のヨーロッパ人の歯並びは、今ほど悪くなかった。また、大都市に住んでいるインド人は、田舎暮らしのインド人より歯並びが悪いと言える。このような事実から、歯並びの悪さと文明発展との関連性は高いと言える。プロフィット先生とアッカーマン先生はこの本の指摘に賛成しています。

顎の機能の低下は調理が普及したからか?

確かに現代社会は、あまり噛まなくなっていることは事実です。しかし、文明の発展とともに「火の使い方を覚え、食べ物が噛みやすくなったため、顎の機能が低下した」という説は正しいのだろうか? 実際に火を使って調理する方法は20万年前から行われてきました。しかし、歯並びはつい最近の200年前から急激に悪化しています。調理が普及したから噛まなくなったという理論は、上記2つの時期が一致していません。プロフィット先生とアッカーマン先生は上記の点から反対の立場です。

顎の成長は遺伝ではなく環境のせいなのか?

現代のヨーロッパ人の顎の大きさは、古代人の顎の大きさとほぼ同じです。そして下記の原住民の食事は変化しましたが、顎の大きさは変わっていません。メラネシア島民の下顎の大きさと前方性において。および、オーストラリアのアボリジニーのバッカル咬合において。

装置を使っても上顎を拡大できるのは、せいぜい1〜2ミリが限界です。顎の大きさは環境の要因もあるかもしれないが、遺伝が全く関係しないとは言えない。プロフィット先生とアッカーマン先生は上記の点から反対の立場です。

オリジナル性に欠けるのでは?

サンドラ・カーン先生とポール・エルリッチ先生の理論は、今からちょうど100年前の1918年に、米国でアルフレッド・ロジャーズ先生によって唱えられています。ロジャーズ先生はハーバード大学の歯科矯正学の最高位で、米国矯正歯科医会のトップとして活躍した著名な方です。しかし、ロジャーズ先生の論文が出てからわずか数年で、彼の主張は忘れ去られてしまいました。

1960年代には、英国でも同様の理論がバラード先生によって発表されました。ミュー先生の理論はバラード先生の理論とまったく同じです。サンドラ・カーン先生はミュー先生の支持者だと主張しています。

プロフィット先生とアッカーマン先生は上記から、「歴史は繰り返されるものと証明できる」と言っています。

十分なデータではない!?

サンドラ・カーン先生が推奨する術式は、上顎を前方へ誘導するのに役立つ取り外し可能な装置を使用して、エクササイズする方法であるが、効果を裏付ける十分なデータがありません。プロフィット先生とアッカーマン先生はそのため、「カーン先生の方法は理論であり、結果に基づいた方法ではない」と言っています。

サンドラ先生とポール先生の反論

上記の反対意見に対して、サンドラ先生とポール先生のお二人が以下のように反論しています。

  • 小さい顎が生き残れるという、あまりありえない仮説があったとしても、変化するために十分な世代交代を経ていない。
  • 本に書かれている内容は全て研究や臨床結果、臨床推論に基づいたものである。
  • 私たちは症状ではなく、原因を追究し、患者の行動を変えることを目的としている。
  • 難しかったり上手くいなかったとしても、理論や方法が間違っている、あるいは不可だという結論には至らない。例として、誰でもオリンピック選手のような成果を出せない。でも出せる人がいるのは、何十年も適切に訓練してきたからだ。それと同じことで、適切な訓練と道具・コーチング・患者の努力次第で、難しい治療が成功に至っているのだ。

プロフィット先生とアッカーマン先生の意見、およびサンドラ先生とポール先生の著書に関して、寄せられたコメントを以下にまとめてみました

 

サンドラ先生とポール先生を支持する派

  • 従来の矯正装置は、機能面や見た目で良くない位置にある歯を、強制的に動かす方法である。強制的に動かしているので、動いた後はリテーナーを使用しないと、その位置を維持できない。持続する治療結果、あるいは機能的結果とは言えない。
  • 機能が形を作らないなら、スポーツジムへ行って筋トレしても筋肉がつかないことになってしまう。筋肉をつけて骨を丈夫にしたい人は、遺伝以外に方法はないという結論になってしまう。それが間違っていることを誰もが知っているので、機能ではなく遺伝だとする考えには賛成できない。

オーソトロピクス®を支持する意見

  • ケンブリッジ大卒の人が言うには、オーソトロピクス®が従来の歯列矯正装置より勝っているとは思っていなかった。2人の娘の歯並びはひどく、疑いながらもミュー先生のオーソトロピクス治療を受けさせた。その結果に大満足している。歯並びだけでなく、顔貌が向上したからだ。

オーソトロピクス®に反対する意見

  • 自分の子供と親戚の子供を含め、10人以上の子供たちの歯科矯正の経過を見てきました。全員抜歯しましたが顔貌はいいです。従来の歯科矯正法は努力を必要とし、装着時の不快感がありますが、結果が出ることは確かであり、オーソトロピクスや筋機能療法よりも後戻りしないと思う。
  • 47年間にわたり従来の歯科矯正法で治療してきました。抜歯せざるを得ない患者の数は年々、上昇の一途です。オーソトロピクスで治療した患者さんの後戻りは5年から7年後に見られました。

なぜにこれほど、従来の歯科矯正を支持する立場の先生と、オーソトロピクスを支持する立場の先生が対立してしまうのか?

  • 従来の歯科矯正法を支持する先生の意見が、少し過剰に思えるというコメントに関連して、次のコメントがありました。歯列矯正装置の費用だけでも2023年までに60億ドルの売り上げ(出荷ベース)になる。治療費はその3〜5倍になるだろう。そのため従来からの治療法を支持する現状維持派が反対するわけだ。

中立意見

  • 歯並びが悪い原因は各個人によって異なる。 同じ歯並びをしている人に同じ矯正装置を使っても結果は異なる。歯科矯正はとても複雑な科学であり、全ての症例で同じ治療法が適合するとは限らないからだ。
  • 診断がカギであり、経験が役立つ。治療法が正しいか正しくないかは問題でない。問題なのは、歯科医師のスキルである。それが歯科矯正の結果を決める。

そんな対立を和らげるためか、こんな冗談のコメントも

  • もし8本抜歯したために気道が小さくなってしまったなら、新しく8本歯を入れることで気道が大きくなるのか?
  • アウストラロピテクスのポスチャーは素晴らしく、両顎が前方に出て、睡眠時無呼吸症がなかった。
  • ホモ・サピエンスがイビキをかいて寝ていたら、猛獣に襲われて生き延びることはできなかっただろう。

この記事は、toportho.org の 2018/06/18 付けの記事(以下の URL)を参照しています。

https://www.toportho.org/think-pieces/jaws-dr-proffit-and-dr-ackerman-review-a-sensationalist-book

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