AAO2019 ウィンターミーティング報告:小児の閉塞性睡眠時無呼吸 POSA について

【第136回ブログ】は、先ごろ開催された米国矯正歯科医会 AAO2019 ウィンターミーティングの概要をお伝えします。会議に出席されたグレッグ・ヨルゲンセン先生が、ケビン・オブライエン先生のブログに寄稿された内容をお伝えしています。このミーティングは、歯科矯正と睡眠時無呼吸に関する特別チームが企画したものです。

歯列矯正と閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)

OSAの治療における歯科矯正医の役割が最近の歯科会議のテーマでした。結論は何かということに焦点を当て、その会議に出席したグレッグ・ヨルゲンセン先生による要約を紹介します。

閉塞性睡眠時無呼吸が及ぼす影響

閉塞性睡眠時無呼吸は深刻な症状で、生命を脅かす病気です。大人のOSAの影響は、昼間の眠気、認知障害、車の事故、イビキ、落ち着きのなさ、睡眠時の頻尿、人間関係、高血圧、脳卒中、平均寿命の低下、そして死にも至ります。

閉塞性睡眠時無呼吸の有病率

最近の研究によるOSAの有病率は、健康な体重の子供は1〜4%であるのに対し、肥満児では50%以上でした。一方、30〜50歳の成人男性は10%、同年代の成人女性は3%でした。

全体的に筋肉が低下する50歳以上になると、男性は17%、女性だと9%に上りました。 肥満の男女では、OSAの有病率は75%以上に上昇しました。

閉塞性睡眠時無呼吸の原因

OSAは多因子性疾患のため、一つの治療で治癒できるものではありません。OSAは顎顔面の形状、大きさ、または位置を変えることによって予防、誘発、治療できる単純な解剖学的状態ではなく、神経、筋肉、身体変化によって複雑に作用されて上気道虚脱の原因になります。この虚脱は上気道の筋肉の低下によって引き起こされ、サイズの縮小によって生じるのではないので、気道のサイズを大きくするだけでは治癒できません。

閉塞性睡眠時無呼吸の危険因子

上気道の筋肉を減少させる全てがOSAの要因となります。肥満が一番の要因であることは明らかであり、その他の要因として加齢、傷害、神経筋障害、性差、太い首回り、喫煙、遺伝があります。

子供の場合は扁桃腺とアデノイド肥大が確実な要因です。

OSAに対する矯正治療の影響

歯の位置、歯列アーチの幅、鼻腔のサイズ、舌小帯の長さ、ヘッドギア、抜歯、後方牽引法などがOSAの原因であるという証拠はありません。また、頭蓋顔面構造と子供の睡眠時呼吸障害に直接な因果関係はありません。

閉塞性睡眠時無呼吸の診断方法

OSAの診断法には自宅用キットやスマートフォンアプリがあり人気になっていますが、現時点の検査方法は睡眠ポリグラフ(PSG)のみです。しかしそれらは脳波を測定していないので、正確な診断に必要な機能の全てが無いとの意見もあります。

矯正医による睡眠ポリグラフ

歯科矯正医は、PSG を使いこなしたり、その結果を評価することはできません。

閉塞性睡眠時無呼吸の値

OSAの重症度を測定する基準に無呼吸低呼吸指数(AHI)があり、1時間当たりの睡眠障害の事象数を表します。大人は5未満が正常、5から15が軽度、15から30が中度、そして30を超えると重度と見なされます。子供の場合、1未満が正常です。子供は睡眠中に無呼吸や低呼吸の事象を起こすべきではないからです。

レントゲンによる診断

CBCTスキャンから有益な3D画像を作成し、呼吸気道の最小断面積(MCA)などの測定値を測れますが、 レントゲンからOSAを診断することはできません。 正式な睡眠検査のみが確実な診断を下します。

側方セファログラム(X線写真)に見られる扁桃腺とアデノイドは、小児OSAの要因である可能性がありますが、それだけでは診断を下せず、耳鼻科医が内視鏡検査を用いて気道閉塞を確認しなくてはいけません。

したがって、2D、3D画像では適切なリスク検査と診断方法を下せません。

大人のOSA治療法

大人の睡眠時無呼吸の一般治療は持続陽圧呼吸療法(CPAP)で、その成功率は90%以上です。 CPAPを着用できない患者さんの場合、口腔内装置療法(下顎を前に出す歯科用リテーナー装着:OAT)で65%の成功率が示されています。 食事と運動で肥満を軽減する方法もありますが、実行率が低いため成功率も非常に低いです。

減量が永久に維持されれば、胃バイパス手術を受けた患者さんは、より良い結果を得るかもしれません。他の治療法には筋機能療法、酸素療法、経口圧療法、舌安定化療法、頸下顎カラー、口腔外科手術があります。それらの治療法のうち、手術と永久的な体重減量だけが可能性があるように思えます。

OSA治療の口腔外科手術法

中咽頭、鼻腔、舌、舌骨、喉、顎を含む口腔外科手術は全てOSAの治療に使用されてきました。

口蓋垂、扁桃柱、隔膜を含む手術は全て、中咽頭を通る空気の流れを増やすことを目的としています。 舌手術の目的は、舌を前方に出す、舌の後方を引き下げる、舌を小さくする、あるいは舌を刺激して筋肉の緊張性を高めることです。

これらの手術は、それらの身体構造が実際に中咽頭虚脱の原因である場合にのみ有効です。 顎変形症治療(SARME)がその虚脱の防止に役立つという証拠はなく、通常OSAの治療には適応されません。 OSA治療で一番成功している外科手術は、両顎前進術(上下顎ともに切断して前に出す方法:MMA)です。

両顎前進術が必要な理由

OSAの患者さんの86%が両顎前進術で治癒しています。両顎前進術を選択する患者さんは、CPAPや口腔用装置に耐えられない人、若者で一生涯CPAPや装置を使用したくない人、その他の頭蓋顔面の問題がある人です。

そのような患者さんにとって最大の課題は、両顎が動かされた後の嚙み合わせの変化です。これがMMAが常に矯正治療と組み合わせて行われる理由です。 非常に成功していますが、OSAは単なる解剖学的状態ではないので、手術後に中咽頭虚脱の問題がある割合が14%あります。

子供のOSA治療法

OSAは肥満が一番の危険因子なので、体重の減量だけで、若い患者さんの半数以上はOSAが治ります。 子供の呼吸障害の2番目の原因として、肥大性アデノイドと扁桃腺があり、今でもアデノイド口蓋扁桃摘出(T&A)が治療法の選択肢になっています。

OSAにおける歯科矯正医の適切な役割

歯科矯正医ができる最も重要なことは病気を理解することです。 歯科矯正医はOSAを予測、予防、診断、または治すことができないという結論が最新のデータから出ています。

矯正医の役割は、症状を検査し、徴候や症状を特定し、適切な医師に紹介し、そしてその医師が規定した適切な治療法か口腔装置を提供することです。矯正医自身でOSAを治療することは歯科領域の専門外です。

OSAの予防と治癒の可能性

TAD(顎骨に打ち込むアンカースクリュー)有り無しにかかわらず、上顎の拡大でOSAの予防や治癒ができると示されていません。OSAの子供に対する上顎拡大の効果は、大抵、患者を正常な成長と比較する対照群がない質の低い研究で支持されています。無作為化治験ではその使用の根拠は認められていません。

鼻腔を含め口蓋の拡大だけでOSAパラメーターが低下するという証拠はありません。鼻腔のサイズが中咽頭の虚脱と関係がないためです。つまり基礎となる骨格構造のサイズを大きくしても、その上にある柔構造が適切に対応したり、異なる反応をしたりするわけではないからです。

矯正医による大人と子供のOSA識別法 

歯科矯正医がすぐに実施できる2つの方法があります。まず、子供のOSAを識別するにあたり、小児睡眠調査票(PSQ)は最良の方法です。それは1ページの問診票に親御さんが記入し、矯正医が解釈する簡単な形式です。

大人の患者さんの場合、OSAを患っている、あるいは発症する危険性を判定するために使用する最良の検査方法にストップバング(STOP-BANG)質問事項があります。

患者さんにOSAがあると思われる場合は、適切な耳鼻咽喉科医か睡眠医科医に紹介する必要があります。

矯正歯科医がOSAに関して出来ない事

歯科矯正医は睡眠時無呼吸を予測、予防、診断、あるいは治療することはできません。矯正医は特定の治療法の提唱に呼吸気道の治療をすべきではありません。例として口蓋の早期拡大、非抜歯治療、非牽引治療などがあります。

OSA疾患の複雑な多因子性から、その原因をいずれか1つのマイナーな歯の要因や顎顔面形態の変化に割り当てることは論理的ではないのですが、人々は誤った情報を作り出し、広くそれを広めています。

OSA一致の緊急性

歯科矯正医が多面から非難されている際中に誤解を招くような情報発信は避けるべきです。OSA問題が手に負えなくなる前に、歯科矯正医が合意に達し、世間に一貫したメッセージを提示することが不可欠です。

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