健康保険が効けば歯科矯正は普及する

【第79回】健康保険が効けば歯科矯正は普及する

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これまでのFACEBOOK記事をまとめています。

【健康保険の適用枠拡大が歯科矯正の普及を促進する】

治療総額85万円を高いと思うかどうかは、世帯や個人の、収入や消費支出の優先度によって異なります。30万円ならすぐ治したい、とはアラサーの共通した思いですが、ドクターは30万円では治らないと断言しています。

それなら、総額60万円はどうでしょうか。実現性のある金額でしょうか。ドクターに伺うと、「うーん」と言って、首を縦に振りません。「もっと、患者さんが増えてくれれば」と言います。

健康保険でお子さんの歯並びを治すことができれば、治療を希望する患者さんは倍増します。現状は、年間新患数30万人 X 85万円 = 2500億円の規模ですが、子供さんの矯正ニーズが2倍になると想定すれば、

30万人 X 子供の割合60% X 2倍 = 36万人

30万人 X 大人の割合40% = 12万人

子供の治療費60万円 X 36万人 = 2160億円

大人の治療費85万円 X 12万人 = 1020億円

2160億円 + 1020億円 = 3200億円の規模に拡大できます。ただし、子供さんの5割と大人の治療は自費診療と考えています。

上記の計算で不明な点は3つあります。①保険診療で60万円は可能なのか。②保険医を希望しない矯正医が多いのは何故か。③大人の治療費も連れて低下する可能性があるが、大人の患者さんも増えるかもしれない。

4%と40%の違いを、どのように理解すべきでしょうか】

誰もが学校で歯科検診を受けた思い出があります。歯医者さんが学校に来て、あーんとお口を開け、何やら数字と記号をつぶやくと、隣にいる歯科衛生士さんが書き留める。平成7年(1995)からは歯並び・噛み合わせ・顎関節もチェックしています。

2015年(H27)の文科省の学校歯科検診のデータによれば、歯列・咬合に異状が認められる割合は、幼稚園児で2〜4%、小学生で4〜6%、中学生で4〜6%、高校生で4〜6%となっています。つまり、20人に1人の割合で、歯並び・噛み合わせに異状があるということです。http://www.mext.go.jp/…/afieldfile/2016/03/28/1365988_03.pdf

しかしながら、歯科疾患実態調査報告(厚労省)の2011年(H23)によれば、12〜20歳の叢生歯(乱ぐい歯)の割合は、調査総数216名のうち、異常なし117名(54.2%)、上下とも叢生27名(12.5%)、上顎のみ叢生31名(14.4%)、下顎のみ35名(16.2%)、不詳6名(2.8%)とあります。この調査は1999年・2005年・2011年と継続的に行なわれ、傾向に変化は見られないとのことです。http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/62-23-01.pdf

学校歯科検診では4〜6%なのに、実態調査では40%と高い。1ケタも違うことがなぜ起きるのでしょうか。片や文科省で、片や厚労省だからでしょうか。理解に苦しみます。学校歯科検診には、要観察でも要精検でも、異状ありと言えない理由があるのでしょうか。

【要精検と言っても、要治療とは言いにくい学校歯科医】

学校歯科検診には当然ながら、健診マニュアルがあります。限られた時間のなかで、ムシ歯・歯周病・歯肉炎・歯垢の付着・顎関節・開口状態・口唇と顔面、加えて歯列(歯ならび)と咬合(噛み合わせ)を診るので、学校歯科医の負担はかなり重いです。

健診結果は異常なし0(ゼロ)、要観察1、要精検2に分類されます。歯列・咬合における要観察1は、程度の軽い異常、もしくは矯正治療中のケースです。要精検2は重度の歯列・咬合異常ですが、マニュアルの例を見てもかなりヒドイです。確かにこれならば20人に1人かもしれない。

どんなにひどくても今の日本においては、顎骨を切る手術をしなければ健康保険は適用になりません。学校歯科医は親御さんに宛てて、「一度、専門医に相談してみてください」と言っても、高額な治療費が発生することとなるので強くは奨められないのです。

海外では、要精検2のような重度の歯列・咬合異常に公的助成があります。日本人の歯並びが悪いと世界中から揶揄されているのは、この制度上の違いがあるためです。下の写真は、学校検診で歯列・咬合の異常を調べる方法です。歯科健診マニュアルは以下のURLから見ることができます。http://www.ibasikai.or.jp/wp-cont…/uploads/…/08/78_pdf04.pdf

【ポジティブ・スイッチになれるかも歯科矯正】

ハンディキャップを乗り越えて、無限の可能性を示してくれたパラリンピアン達の、活躍の舞台は4年後の東京に移ります。障害者アスリートを支える、コーチ・ご家族・技術スタッフの皆さんにも、大きな拍手と感謝の言葉を送りたいです。

テーマとしている歯科矯正においても、障害者歯科という視点が欠かせません。先天性CLCP(口唇口蓋裂)や、後天性の顎変形症など、顎骨手術を伴う治療にのみ健康保険が効きますが、それ以外の矯正治療には保険が効きません。

噛めない、正しく発音できないという問題は、障害のなかでも比較的に軽いと見なされています。障害者自立支援法の障害の程度において、障害等級3級では、「咀嚼または言語機能に相当程度の障害を残すもの」とあります。解釈にもよりますが、咬合の悪さは障害に含まれていないのかもしれません。

労災保険の障害等級も参考になります。第1〜14級に区分されたうち、第9・10級には「咀嚼または言語機能に障害を残すもの」とあります。仕事上の事故や、交通事故の後遺症としての等級ですが、参考になりそうです。

パラリンピアンは、ハンディキャップを乗り越えた姿が美しい。歯科矯正も障害者歯科の視点から、歯並びに悩む多くの子供たちの心に、ポジティブスイッチを押すことはできないものだろうか。

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