【第84回】フォークが人々の噛み合わせを変えた

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普通に噛めば、上の前歯が下の歯にかぶさるオーバーバイト (overbite) になります 。しかし、このオーバーバイトは普通じゃないと、疑問を投げかける専門家がいます。そのひとは英国の人類学者 C. Loring Brace 教授です。教授の研究によれば、つい最近まで人類は、猿と同じく前歯同士が噛み合う切端咬合であったと言うのです。フォークが普及するまで人々は前歯で食べ物に噛み付き、咥えて、ちぎって食べていたと言うのです。

これまでは、数千年前からの農耕文明が穀類を食べる習慣を広め、それが人類をオーバーバイトに変化させたと考られていました。しかし、人類の頭蓋骨と歯並びを長年にわたり調査したところ、つい最近まで人類は切端咬合(エッジバイト)であったというのです。ヨーロッパにおいては、1700年代になってようやく、オーバーバイトが見られるようになりました。教授は、前歯の噛み合わせの変化は、食べ物によるのではなく食べ方によるのだ、との結論に至ったと主張しています。

フォークが使われる以前は、人々は前歯で肉の塊をくわえ、歯やナイフでちぎって食べていました。従って、上の歯と下の歯は切端で食べ物を咥えられるように、エッジバイトでなければなりませんでした。しかし、ナイフで刻んだお肉をフォークで口に運ぶようになると、肉の塊を咥える必要がなくなり、オーバーバイトに変化したと言うのです。更に、咥えなくなった前歯は使われなくなり、どんどん伸びて、上が下に被さりオーバーバイトになったと考えています。

下の前歯にかぶさった上の6前歯がキレイに並んでいる状態は、美しい歯並びの絶対条件ですが、教授はそれはナチュラルでは無いと断言しています。 「最初に上下の第1大臼歯が生えてきます。大臼歯の形はとても規則的で、それらは咬頭嵌合位(こうとうかんごうい:上下顎の歯列が最も多くの部位で接触し、安定した状態にあるときの位置関係)で向き合って並び、上下顎の位置を決定付けます。その後に乳歯は抜け、大人の歯に生え変わります。この生え変わり時に、噛んで使うことによって歯の位置が決定付けられるのです。」 古代から人々は前歯でものを咥えていたので、一貫してオーバーバイトではなく、エッジバイトであったと言うのです。

世界中をくまなく調査した結果、ヨーロッパでフォークを使い始めた頃より900年前の中国で、人々はすでにオーバーバイトであったそうです。その原因は、なんとお箸の文化にあったと理解されています。更に、調査を進めるうちに、オーストラリアの原住民アボリジニー家族のなかに、その確証を得たと言います。つまり、年上の子供達は顎が発達して顔が短かく、完璧な噛み合わせを備えているのに対して、年下の子供達は面長で顎が狭く、オーバーバイトであり不揃いの歯並びであったと言うのです。これはある時期を境にして、森の中の生活から街の生活に変化したために、骨格の成長に影響したと考えられます。上の子が骨つき肉に食らいついたのに対して、下の子はオートーミールで育ったからです。歯が生えてくるときの刺激がいかに大切なのかが理解できます。

フォークは中世のイタリアで生まれました。しかし、すぐには広まらず、ようやく1700年頃に食器として貴族階層に使われ始めました。テーブルマナーとしてのフォークとナイフは、1800年頃に一般大衆に普及し、1900年初頭のステンレスの発明とともに、家庭の必需品となりました。この頃には切端咬合(エッジバイト)は全く見られなくなったと言います。

本稿は DentsplyGAC さんの記事「Flatware and the Crooked Smile」を参考にしています。

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