噛めないという障害をもつ子どもの治療は

【第67回】噛めないという障害をもつ子どもの治療は

説明入り

噛む・噛み切るという咀嚼(そしゃく)機能と、相手と会話をつうじてコミュニケーションする言語機能は、生きていくための基本要件です。極度に歯並びが悪いために、これら機能に重篤な障害があるならば、健康保険で治療されるべきです。これらの機能障害は障害等級の9級・10級に該当します。障害をもつ児童としてみなされるならば、当然のように保険治療が施されるべきです。

1)保険診療の枠を広げる  

日本では、口唇口蓋裂および外科手術(顎の骨を切る手術)をともなう歯科矯正治療のみに健康保険が適用されています。どんなにひどい歯並びでも、顎骨切り手術を伴わないケースは保険適用の対象とはなりません。しかしながら、極度に歯並びが悪いために、咀嚼機能と言語機能に障害をもつ子ども達に対しては、OECD諸国並みに歯科矯正必要度インデックス(IOTN)を用いて評価し、グレード4・5に対しては健康保険を適用すべきです。(IOTNグレード1〜5については【第2回イギリスレポート】ブログを参照願います。)日本では、保険で治療できる範囲はグレード5の一部に留まっていますが、かたやイギリスではグレード3も保険適用の対象となっています。

2)学校での歯並び検診を歯科矯正医が行なう  

上記の保険枠とも関連しますが、学校歯科検診で不正咬合を指摘されるのは僅か5%弱です。しかし、多くの論文が示すように約4割の子供たちに何らかの不正咬合が認められるとの指摘があります。この問題の解決のためには、やはり諸外国と同じように、歯並び・噛み合わせ検診は歯科矯正医によってなされるべきと思われます。できればIOTN評価基準を用いて。

3)低所得世帯への矯正治療を無償に

保険財政の逼迫から現実的でないと思われるかもしれませんが、やはりOECD諸国のいずれもが、低所得世帯の子供たちの矯正治療を無償化しています。国によって制度に違いはありますが、10〜20%の子供たちが無償治療の対象となっています。日本においては16%の子供たちが貧困状態にあると言われています。子育て支援が喫緊の課題である日本において、子どもの矯正治療を財政的に支援することで親の負担を減らし、職業選択のハンディキャップを取り除くという点でも重要な意味をもっています。

4)ホームデンティストとの連携

分かっていてもなかなか難しい問題として、矯正歯科医と一般歯科医(GDP)との連携があります。ホームデンティストとしての一般歯科医は、歯並びの悩みも解決する立場にあります。矯正専門医を紹介する地域連携こそが、歯科矯正の秩序ある普及に欠かせないと思われます。また同時に、一般歯科医がIOTN・AC (Aesthetic Component) などにもとづく基礎的診断ができることが理想的であると思われます。

世界中の普通の家庭の子供たちは、ごく当たり前に歯並びを治しています。しかしながら、日本における歯科矯正の普及率は米国の5分の1、欧州や韓国の3分の1とも言われています。中国や東南アジアも近年は急速に普及してきています。日本と諸外国の医療制度の長年にわたる違いが、歯科矯正の普及率の差になって現れていると考えられます。各国の医療制度には一長一短があり、どちらかと言えば、日本の皆保険制度は世界の羨望の的ですが、歯科矯正に関しては取組みが遅れています。NPOアマポーラオーソは、発足以来2年間の活動をつうじて、日本における歯科矯正の正しい普及のためには、上記4項目が今後に取り組むべき課題であるとの思いに至りました。

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