それでも不正咬合は遺伝によるのか?
【第105回ブログ】それでも不正咬合は遺伝によるのか?
歯並びと噛み合わせが悪いのは、遺伝なのか?それとも育った環境によるのでしょうか? 親御さんが受け口ならば、お子さんも同じ顔立ちになりそうですね。親の形質を受け継ぐので、不正咬合は親の責任と考える時代が長く続きました。
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他方で、不正咬合は育った環境による影響が、圧倒的に大きいのだと主張する専門家もいます。不正咬合は遺伝なのか?環境なのか? この論争は長い間続けられてきました。多くの研究を経て、矯正歯科の専門家グループは、遺伝に軍配をあげています。
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8割遺伝・2割環境がなんとなく一致した見方です。5割・5割ではない。しかし、この考え方に問題があります。不正咬合は親から受け継いだ運命のようなものだから、途中で変えるのは難しいと。一時的に変えられても、いずれ戻ってしまうだろうと。
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変えることができるのは、アゴの成長が安定し、永久歯に生え変わってからと考えています。アゴの成長因子も遺伝要素の一つと考えるために、6歳からの早期介入にためらいがあります。
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【環境要素が多いと考える MFT とオーソトロピクス】
筋機能療法 MFT に理解のある専門医であれば、歯並びと噛み合わせの悪さは、8割が育った環境、2割が遺伝と考えるかもしれません。筋機能よりポスチャー(お口まわりの姿・形)が重要と考えるオーソトロピクスも、8割環境・2割遺伝です。
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米国ミシシッピ大学のグロス先生は、500人弱の小学生を対象に5年間にわたり、開口と上顎成長の関係性を調べました。お口を開きっ放しにしている子供は、上顎の成長が弱く、従って下顎も歯並びが悪かったと報告しています。
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不正咬合は遺伝によるものと信じている専門医は、上記小学生の不正咬合を「劣成長の上顎と後退した下顎に原因があった」と判断しますが、この形態異常がなぜ起きたかを説明することができません。
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グロス先生の論文は以下のサイトよりご覧いただけます。
http://www.angle.org/…/0003-3219%281994%29064%3C0419%3AALEO
【骨を硬いと考えるか、柔らかいと考えるか】
歯並びを整える矯正治療は、顎骨の中で歯を動かすことによってできます。50グラムのほんの弱い力を加えるだけで、顎骨が溶けて吸収され、反対側のスキマに新しい骨が作られ、歯が動いたように見えます。
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骨は柔らかいもの、骨はリモデリング(吸収と再生)を繰り返す柔構造であるというのが、近年の一致した見方です。しかし、歯科矯正の常識は、顎顔面骨は遺伝によるものであって、1ミリも変化させることができないというものでした。
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この考えは、ブロディ先生が1938年に、まだボンヤリしていたX線写真を使って患者さんを診断した結果として、「明らかな事実として、歯槽突起(歯が生えている顎骨の部分)以外は、何も変えることができない」と断言したためです。
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それから、長い思考停止の期間が始まりました。さすがに今では、CT や MRI を用いて立体的に診断できるので、顎顔面骨を変化できないと考える先生はいません。
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写真は13歳の双子の姉妹です。遺伝子が同一な一卵性ツインですが、鼻から下の違いがあることにご注目ください。顎顔面は遺伝によりきめられると主張する先生は、この違いを説明できません。
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【最新の学会発表にみるオーソトロピクス的な考え方】
先ごろ、アメリカで開かれた矯正歯科の専門医のコンベンション(学会)から、興味深いテーマを拾ってみました。オーソトロピクス的な考え方が浸透しつつあります。
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今回のシリーズ【変化しうる矯正治療】で取り上げたところの、
- 生え変わり時期からの早期矯正
- 睡眠障害と無呼吸症を解決する取り組み
- タングポスチャー(舌位置)と顎成長の関係性
- エアウェイ(気道)を確保する治療
などの問題が議論されていました。
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写真はもう一枚の一卵性ツインですが、やはり鼻から下に違いが見られます。全く DNA が同じでも、成長時の行動や食事の違いにより、鼻から下の中顔面に違いが見られます。遺伝だけではない証拠です。
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次回から、お顔の話題を取り上げます。誰もが小顔になりたいと思っていますが、なぜでしょうか? 小顔文化は健康にいいのでしょうか? 日本人の口元は美しいのでしょうか?
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