後退したアゴによる呼吸障害は、人類進化の負の遺産

【第115回ブログ】はアダムとイブの失楽園のような話題です。二足歩行で採集生活の人類の祖先は、火を使って調理することをおぼえ、あまり噛まなくなりました。後退したアゴは、垂直に伸びたノドを作り、声帯と舌は言葉によるコミュニケーションを可能にしました。しかし、アゴとともに後退した舌は、呼吸する気道を狭める結果となります。林檎という知恵を食べたアダムは、呼吸という生き辛さを抱えてしまいました

【噛むのを止めたら人間になった】

イラストは左がゴリラ、右はチンパンジーの頭蓋骨です。目のうしろの側頭部の凹みが、人間よりとても大きいことに気がつきます。この凹みに噛むためのソシャク筋(側頭筋)が繋がっています。

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人間は道具を使うことにより、食いちぎったり、噛み砕く食事を止めたため、ソシャク筋が細くなりました。その分だけ頭蓋骨が大きくなりました。大脳が発達するスペースが生まれたワケです。

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強く噛むことを止めたので、顎は小さくなり後退しました。顎が後退した結果、鼻腔(鼻の奥の空洞)スペースが無くなり、鼻が顔の前面に突き出しました。

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顎が後退した結果、斜めに傾いていたノドは垂直になり、舌根部が発達し、声帯が長くなり、声を発することができるようになりました。言葉によるコミュニケーションがますます大脳を発達させました。

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このように噛むのを止めたことから、猿人・原人・ホモサピエンスを経て、人類が誕生したのです。噛まない進化と文明は、人類の宿命なのですね。この先、人類の顎はどうなってしまうのでしょうか?

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【後退した顎がもたらしたもの】

道具と火によって、強く噛まずとも生きのびた人類の祖先は顎が小さくなり、そして後退しました。後退した顎が鼻を突出させ、ノドと声を作り出します。そして同時に問題も生じます。

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イラストの左がチンパンジー、右が人間です。後退した顎と舌の周辺構造に、大きな違いが見られます。ノドは斜めだったものが、ほぼ垂直に変化しました。ノドと声帯が長くなり、首ができました。

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後退した舌は、特に奥のほう(舌根部)の自由度が増しました。自在に舌を動かせるようになったので、言葉を発することができるようになり、格段に脳が進化します。

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問題も発生しました。後退した舌がノドを塞ぐことです。呼吸がしづらくなりました。人類は加齢や肥満とともに、睡眠時無呼吸症に悩まされることになったのです。呼吸障害は人類進化の負の遺産です。

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「失楽園」はアダムとイブがリンゴを食べて、知恵を手に入れたことから始まりますが、言葉を発したアダムのノド仏を「アダムのリンゴ」と呼ぶ所以でしょうか。もっとも人類が最初に食べた果実は、リンゴではなくイチジクであったという説が有力です。前を隠しているのはイチジクの葉ですから。

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【文明とアゴの問題】

元の画像はウィキペディアだったと思いますが、文明の発達はアゴの後退であったことが理解できます。人類のアゴの矮小化はとどまるところを知らず、今や、呼吸障害と睡眠障害を誘発するレベルに達しています。

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大規模に流行する病気のことを、エピデミック epidemic と言います。後退したアゴや、下に垂れ下がったアゴを持つ人を、世界中のどの街にも見られる風景となりました。

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「アゴ・・それは隠れたエピデミック」と題する Youtube動画をアップしています。10分x4部構成で計40分のディスカッションです。歯科医療従事者・幼児教育担当者・親御さんに広く見ていただきたい内容です。お子さんの将来のために。

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https://www.youtube.com/watch?v=tY7h9_nn0Rk&t=18s

【人間にオトガイができた理由】

お猿さんにはオトガイがありません。サルの下顎はボートの船首のように丸くなっています。これは歯列が前に出ているからです。ちなみに人間のような鼻もありません。

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猿人からホモサピエンスへの進化の過程で、鼻とオトガイが作られました。歯列が後退して小さくなった結果です。その割に、舌の大きさが変わっていないことに気がつきませんか?

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声帯が下がり首ができたので、言葉を発することができるようになりました。会話するとともに大脳が発達します。大脳に押されて顔から鼻が飛び出たと考えられています。

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活発な舌の動きを制約しないために、オトガイ(下顎)が生まれました。顎の小さい人や、顎の後退した人は、舌が小さいとは考えにくいので、舌を動かしにくかったり、呼吸障害の問題を抱えていることが考えられます。

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参考図書は日本顔学会編「顔の百科事典」丸善出版です。

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【ホモサピエンスはうつむいていた】

猿人や原人になかったオトガイが、ホモサピエンスだけに見られる理由は、歯列が小さくなり、口元が後退したためです。しかし同時に、下顎も後退してしまうと、ノドを圧迫し窒息してしまうので、下広がりのオトガイが形づくられました。

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目的に合わせて道具を作り分け、火を使って調理するようになったサピエンスは、手元の作業が増えるとともに、下向き、うつむいている姿勢が多くなったと思われます。

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この時、下顎(オトガイ)も縮小後退してしまうと、気道を圧迫し息がしずらくなります。これを避けるために進化の過程で、オトガイが前に張り出したと考えられています。

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私たちがスマホや PC を使っている姿勢を見てみると、いつしかアゴを突き出していませんか? これは、アゴを引くと呼吸しづらいからです。ライフスタイルが変化し、急速にアゴが小さくなっている現代人は、先祖返りしているのかもしれませんね。

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