トラブルを回避するために、矯正歯科医は早期介入に積極的になってほしい
【第144回ブログ】は2018年12月中旬の Facebook記事を転載しています。オーソトロピクス的な顎顔面成長誘導に対する理解が広がりつつあります。対して、床矯正装置によるトラブルが絶えません。矯正歯科医は6歳からの早期治療・早期介入にもっと積極的になってほしいです。
【歯科矯正の専門誌にみるトレンドの変化】
えっ、こんなに多かったの? という感覚にとらわれたのは、矯正の専門ジャーナル12月号の記事と広告です。早期治療・早期介入・混合歯列前期からのマネージメント・顎顔面成長誘導・咬合育成などの言葉に反応しました。
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カウントしてみたら、全132ページのうち、上記の言葉に対応する記事と広告は38ページにおよび、全体の3割弱でした。オーソトロピクス的な思想が広がりを見せている証しでしょうか。他にはアンカースクリュー TAD の記事が目立ちます。
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ちなみに2年前の、2016年12月号も同じく132ページでした。上記の言葉に対応する記事と広告は全15ページで、全体の1割ほどでした。2年前の記事はクリアアライナーが多かったです。
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たまたまでしょうが、早期矯正に向き合わざるを得ない、環境の変化があるのかもしれません。さらに2年後には、関連の記事と広告が、5割を超えていることを期待して、今後も努力して参ります。
【後戻りを避けられない床矯正装置】
ネジを回して強制的に上顎を広げても、装置を外すと後戻りしてしまいます。広げたままの状態で、しばらく固定する方法もありますが、それでもいずれは戻ってしまいます。
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20〜40万円のコストと、1〜2年を努力しても、水の泡となることがあります。それは、床矯正装置が舌の役割をジャマしているからです。広げた後で固定する装置(保定装置ともいう)も同じことです。
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舌が口蓋に付いていなければ、歯列を内側から支える力が生まれません。唇と頬の力に押されて、元に戻ってしまいます。当然ながら、床矯正装置で治療したあとに、筋機能療法 MFT を受けますが、ほとんど継続できずに終わってしまいます。
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加えて、今の MFTは舌先ばかりに注目していて、舌の根元の役割を軽んじています。床矯正に対する失望が、日本の早期治療への取り組みを躊躇させているかと思うと残念です。世界の最新情報をお届けするアマポーラの動画配信はこちらから。
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【床矯正の限界をみる】
写真は床矯正装置による治療例です。歯並びと噛み合わせに重点を置いていますが、口蓋が深く、顎がとても狭いです。唇とのバランスは写真がないので読み取れませんが、滑舌が悪くなりそうなほどに、顎が狭い感じがします。
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永久歯列なのでしょうが、治療中の混合歯列のようなイメージです。床矯正装置が当たって、口蓋の一部が白くなっています。歯槽骨の中で、歯だけが外に開いている変な感じがします。
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口蓋のくぼみが深いのは、上顎がまだ十分に水平方向に成長していない証拠です。伴って、下顎も広がっていません。見た目を少しばかり改善できても、舌機能や呼吸気道までは考慮されていないようです。
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このタイミングでしかできない治療があります。その大事な時期を、床矯正で終えてしまうのは本当に残念です。医療人は他人の症例を批判しないルールがありますが、私はその立場にないので書いています。
【入れ歯文化の延長にあると思われる床矯正装置】
舌の動きを妨げる床矯正装置 (Removable Plate) による上顎の拡大は、思わぬ結果をもたらします。上の奥歯が下の奥歯の内側にあるクロスバイトのようなケースでは、ネジによる急速な拡大が効果的ですが、必要以上に拡大してしまうと、写真のように、下の奥歯のさらに外側まで広がってしまいます。
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下顎を広げることはさらに難しいので、修復に時間がかかりそうですね。小学低学年のお子さんの上顎拡大は、ネジ式より、もっとゆっくりしたバネ式の拡大が理想的です。上下一緒に拡大成長できますし、かつ、舌の働きをジャマしない装置が望ましいです。
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この年齢では、歯並びを整えるよりも、アゴを育てることに重点をおいて治療した方がいいです。入れ歯のような、拡大床でアゴを広げるイメージは分かりやすいので、つい飛びつきますが、アゴを育てることはできません。そればかりか、成長のチャンスを逃すことになります。
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