米国矯正歯科医会から睡眠時無呼吸に関する報告書が出ました
【第150回ブログ】は、歯科矯正と睡眠時無呼吸をとりまく話題です。関係性を否定する専門医グループと、深く関係すると考えている専門医グループがあります。エビデンスを重視する医療機関は、慎重に研究を積み重ねています。この記事は、2019年2月下旬の Facebook 記事から転載しています。
【限りないグラデーションの中にある睡眠時無呼吸への取り組み】
小児の睡眠時無呼吸 POSA について何もできることは無い、と強く主張する米国矯正歯科医会 AAO に対して、歯科矯正が呼吸気道を狭めていると主張する一部の専門家もいます。
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両者の間に限りないグラデーションがあり、その中でも多くの賛同を得たのは、小児の睡眠時無呼吸に対してチーム医療で当たるべきという意見です。耳鼻咽喉科・小児歯科・筋機能療法士を含めたチーム医療の中で、矯正歯科医が主体的な役割を果たせるという意見です。
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生え変わり時期からの早期矯正に取り組んできた、ジム・マクナマラ先生が、「睡眠時無呼吸:全ての臨床家と患者さんが知るべきこと」と題して、専門書を出版しています。米国 Needham Press 社から 85ドルで出ていますが、日本へは送料込みの 125ドルで送ってくれます。
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https://orthodonticbooks.com/…/cgs-volume-54-sleep-apnea-w…/
【お子さんに安易に CPAP 装置を使うべきで無い理由】
知り合いのお孫さんで5歳の男の子が、ひどい睡眠障害に悩まされていると心配していました。寝ているときに息が止まったり、突発的に息をふき返したり、必要な睡眠を取れていないといいます。
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ほぼ半数の割合で、アデノイドや扁桃腺の腫れが原因していますので、耳鼻咽喉科に通われているのは賢明ですね、と申し上げました。
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問題はその先で、アデノイドや扁桃腺を切除しても改善しない場合や、切除手術を受けない場合に、安易にCPAP装置に頼るケースです。
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CPAP装置は強制的に鼻から空気を送り込むポンプで、大型のマスクのような形をしています。鼻の周囲を隙間なくカバーするために、上顎に圧迫力を加えます。
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CPAP装置によって、上顎の前方成長が阻害されてしまう問題があります。実際にCPAPを使った結果、上顎が劣った成長であったとの報告がなされました。したがって、成長期のお子さんにはCPAPを使うべきで無いというのが結論です。
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【睡眠時無呼吸 OSA についてのホワイトペーパーが AAO から出されました】
2年前からタスクフォースを編成し、先ごろのウィンターミーティングでも議論した、睡眠時無呼吸 OSA に対する対応を検討していた米国矯正歯科医会 AAO から、ホワイトペーパー(最終報告書)が出されました。
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大人の睡眠時無呼吸(過去と現在の問題)、および子供の睡眠時無呼吸(現在から未来の問題)に分けて解説しています。大人と子供で、歯科矯正医としてできることが違うからです。
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矯正歯科業界にとってはヨチヨチ歩きの一歩でも、不正咬合と睡眠障害が深く関係しているとみる顎顔面成長を重視するグループ・団体にとっては、とても大きな一歩です。
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ホワイトペーパー(白書)は、もともと政府刊行物でした。今日では、マーケティングのためのコミュニケーション・ツールとして用いられています。従って、ネガティブな面を最小化し、好ましい情報を誇張する傾向があります。割引いて考えないといけません。
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睡眠時無呼吸に関する AAO ホワイトペーパーの PDF はこちらからご覧いただけます。
【 CT 画像で呼吸気道を判断するリスク】
歯医者さんに行くと、アゴを載せてぐるっと回るレントゲン装置がありますね。それと似た装置で、歯科用の CT装置があります。断層撮影装置なので、3次元の立体画像を見ることができます。
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歯科医院に CT装置が増えてきたおかげで、呼吸気道の断面積を測定できるようになりました。そのため、気道パイプの太さが正常かどうか、歯科矯正と関連づけて議論されることとなりました。
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睡眠時無呼吸 OSA に関するタスクフォースは、矯正歯科医による CT画像の判断を信頼できないものと考えています。その理由は、矯正歯科医は呼吸気道の専門家でないこと、気道断面積の計測にバラツキが大きいこと、座って計測するので睡眠時の姿勢と筋緊張でないことがあります。
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米国矯正歯科医会 AAO のタスクフォースは、CT画像は矯正治療前後の参考データになっても、良し悪しの絶対評価には用いられないとの結論を導いています。
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