イギリスの歯科矯正事情

【第３回】イギリスの歯科矯正事情

一般歯科医と矯正治療

イギリスにおける歯科医師は、５年間の専門教育終了後に総合歯科協議会（GDC）によって登録されます。その後に、NHSによる１年間の基礎訓練を義務付けられています。これによりNHS保険医としての一般歯科医の資格が得られます。GDC登録のほかに、（開業）歯科医は治療品質委員会（Care Quality Commission : CQC）によっても登録される必要があります。CQCは歯科医院の治療の質と安全性を検査して、報告書をウェブサイトで公開しています。一般歯科医は矯正歯科医として認められていませんが、IOTN評価を十分に理解し、患者さんを矯正専門医に紹介する立場にあります。一般歯科医の仕事は、矯正治療中および治療後に患者さんの口腔衛生を健全に保つこととされています。

一般歯科医が矯正治療も手がけようと思えば、追加の訓練コースを受けることができます。しかしながら、難しい症例はやはり専門医もしくは地域の病院に委ねなければなりません。彼ら/彼女らは専門能力を強化した歯科医（Dentists with Enhanced Skills : DES）と呼ばれます。矯正も手がける一般歯科医は、矯正治療委員会 (Commissioners of orthodontic care) によって認証され、GDCにおいて専門医リストに登録されます。追加の訓練コースはこれまでは２年間の臨床アシスタント・プログラムでしたが、現在は長期専門医トレーニング（Longitudinal Professional Training : LPT）と呼ばれています。このトレーニングは矯正専門医院もしくは病院歯科において実施されます。

矯正専門医について

一般歯科医が矯正専門医になるためには、全英で15ある歯科大学院の医局で３年間のトレーニングを受けなければなりません。その後にGDCから専門課程の修了書を授与されます。矯正医はさらに２年間の研修を重ねることにより、病院において多科にわたる矯正治療をリードすることができます。多科にわたる治療とは多くの場合、口唇口蓋裂や外科手術をともなう矯正治療です。

現状でイギリスにおける矯正治療は３つのグループによって行なわれています。

（１）一般歯科医によるもの

（２）専門能力を強化した歯科医によるもの

（３）矯正専門医によるもの

（２）には病院勤務のチームメンバーを含みます。　（３）には矯正セラピスト（Orthodontic Therapists）と言って、（１）および（２）のグループの指示のもとに矯正治療を専門に行なう施術士がいます。この３者の関係を下図に示しています。

矯正セラピストについて

　2007年に創設されたこの制度は、矯正治療をおこなう歯科医師不足から生まれたものです。過去において、11歳の子どもの50％が矯正治療を必要としていたにもかかわらず、他の欧州諸国にくらべてイギリスでは矯正歯科医が不足していました。その結果、全英の矯正歯科医は他の欧州諸国に比べて、２倍の患者さんを治療していたにもかかわらず、多くの子供たちが治療を受けることができない現実がありました。1998年にブリストル大学でのパイロットスタディーにより、歯科衛生士（DH）に矯正治療の一部を任せようと、そのためのトレーニングプログラムが10年をかけて開発されました。セラピストとなる歯科衛生士（DH）は矯正治療に関して、12ヶ月間のフルタイムのトレーニングを義務付けられています。GDCによって認定された６つの訓練コースが、英国とウェールズに設けられています。矯正セラピストは必ずドクターの指示のもとに、もしくは監督のもとに治療することが義務化されています。

矯正セラピストが行なう治療内容については次回に。