【イタリア矯正事情part3】

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イタリアは日本以上に歯医者さんの数が多いようです。矯正専門医と一般歯科医(GP)の垣根は限りなく低いようです。医院広告規制はかなり厳しく、結果的にウェブやSNSに頼る傾向があります。


イタリア人の歯医者事情

国民10万人あたりの歯科医の数は約97人。WHOによると歯科医の数は、2,000人の住民に対して1人、という基準値を出していますが、イタリアでは、1,030人に1人となり、歯科医が極端に多いです。

歯科医は、大学で5年間の歯科教育を受けた後、大学によって認定される資格です。毎年イタリアの大学で歯科医の試験を受ける学生の数は約800人ですが、実際の歯科医の年間の新登録数は約1500人になります。これはアルバニアなどの卒業試験が簡単なヨーロッパ共同体の中の他国で卒業したイタリア人学生が、帰国し歯科医として登録するので、約2倍の数字になります。ヨーロッパ共同体は、各国の基準を同等に扱うことが目的なので、この傾向はさらに拍車がかかると見込まれます。

一方、矯正歯科医は、大学での5年間の歯科教育のあと、3年間の矯正特別課程を終了後、大学によって認定されます。こちらは、ほぼ歯科医の5%未満とかなり少なく、約2,900人です。

イタリアでは、一般歯科医も矯正治療を行うことが、法律的に認められています。矯正専門医の数が極端に少ないので、大多数の患者が一般歯科医による治療を受けているのが実情です。実際に子供が矯正治療中という人に、筆者が取ったアンケートでは、自分の歯科医が専門の矯正歯科医かどうかを知っている人は1割にも満たない数字でした。

イタリア人にもかかわらず、イタリアの医療補助のシステムを始め、矯正専門歯科医の存在、公的医療機関での治療費についてもほとんど知らない状態でした。公共の病院で治療を受けている一人を除いては、すべて一般歯科医による治療中でしたが、治療によるトラブルの報告はありませんでした。

広告規制の方向へ
イタリアでは、一般歯科医も、小児歯科も、矯正治療をする表示が可能です。ただ、一般的に広告看板は町の中でほとんど見かけません。マンションの一室を利用して個人で開業している歯科医院が、おそらく8割以上を占めると思われますが、インターフォンの横に、プレート状の目立たない「歯科医」という看板がかかっているだけです。治療内容を特に記入しているわけでもなく、口コミの患者さんを対象にした表札、という感じです。近所のどこに歯科医院があるかは、よっぽど注意していないと気づきません。

ローマなどの都市部で近年展開してきている数人もの歯科医がいる大きなクリニックは、駅や通りなどに看板を表示しています。新聞や雑誌にも治療技術を記載した広告を表示していますが、日本に比べると、圧倒的に少ないです。ネットやブログでも、個人医院をはじめ広告はかなり展開しており、患者の体験談も載っています。

ただ、今年に入ってから、国務院により、医師、特に歯科医に対する広告規制が勧告されました。価格による商業プロモーションは、国民に甚大な健康被害をもたらす可能性がある、との理由ですが、この格安な大きなクリニックの進出により、個人の開業歯科医たちが患者さんを失う危機感のほうが大きな理由のような気がします。

例えば、定期検診の口の中の掃除は、これまでのプライベートの個人歯科医院の場合、約70ユーロ(9,500円)から100ユーロ(13,500円)くらいですが、大きなクリニックで、20ユーロ(2,700円)という新聞の広告を見ました。
 

矯正に対するプロモーションとイタリア人気質

イタリアは高税率の国で、自由業の所得税の平均が約50%にも上ります。歯科医が脱税目的で、領収書が必要なければ、治療費を減額できるけれど、という対応も日常茶飯事です。そのため、実際に申告している数字は、どうしても実際の数字とかけ離れていることは周知の事実で、患者数の正確な統計というものは存在しないのです。今回のアンケートにあたっても、歯科医たちは、患者数などの正確な数字による返答は拒否していました。

「統計というのはアメリカ人が好きなもので、私たちイタリアではそういう統計数字は存在しない。すべてがケースバイケースで、割合で答えるのは難しいし、そうした数字は意味をもたない」というのが、彼らの持論です。こういった状況なので、「プロモーション」の点では、かなり後進国です。学校での歯科検診も存在せず、歯科教育もありません。希望者のみの公的かかりつけ医による定期検診で、この総合医の個人的判断があるのみです。個が尊重される国では、何事も各自が個人の経験、教育、経済状況に基づき、判断を下していくのです。

実際は、近年のグローバリゼーションによる食生活の変化、また、調理器具の普及などによりほぼ完全なクリーム状の離乳食を食べさせる期間の長期化で、最近の子供たちは歯並びが悪い、という傾向にあります。そうした中、小学生へは親の学校への送り迎えが義務付けられているので、矯正している子供を日常的に目にする機会があり、そうすると、うちの子も矯正、という自然の相乗効果により、高い矯正治療普及率なのでしょうか。また、歯科医の数が異常に多いことも普及率が高い理由でしょう。

イタリアの経済状況は、毎年、悪化の一途を辿っているのですが、歯並びを美しくするだけではなく、発音がより正確にでき、咀嚼もよくなり食べ方もよくなる、として、子供の矯正は増える傾向にあります。子供のためには、という世界共通の親の心理に加えて、家族の絆が強く、子供のことを大切にするキリスト教的精神も反映されている結果だと思いました。

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