ワシントンポスト紙の記事にみる、子供の睡眠障害と多動性障害 ADHD
【第135回ブログ】は、ほぼ1年前の記事ですが、「子供の睡眠障害と多動性障害 ADHD」 の問題を取り上げた米国ワシントンポスト紙の要約を紹介しています。睡眠障害は国家的損失とばかりに、医科・歯科を問わず国をあげて横断的に取り組む姿勢に、この問題に対する危機感を感じます。歯科の分野でできる対症療法は、下顎を前に押し出すリーテーナー型が一般的ですが、長期的に呼吸気道を広げる顎顔面の成長誘導が唯一の解決策です。記事の内容は、この問題を多面的に捉えていますので、ぜひご一読ください。
ADHD(注意欠陥・多動性障害)が睡眠障害の症状だとしたら、基本的な治療法は変わるのでしょうか?
90年代後半から顕著に見られるようになったADHD
アメリカではここ20年の間に、子供達の集中力低下、衝動的行動、エネルギー過発散について多くの問題が報告されています。その性格は注意欠陥、多動性障害としてみなされ、ADHDと呼ばれています。これは重大な危機と理解され、ADHDの原因を探るために教育者や政策者、科学者達は何十億ドルも費やしてきました。
ADHDの原因
遺伝的なもの、脳の発達障害、鉛による汚染、早期教育のやり過ぎなど多くの要素を調べましたが、現在のところ、多くの研究家はこう提案しています。「子供達はただ単に十分な睡眠を得られていないために、ADHDに似た行動を示すようになったのではないか?」と。
子供達の多忙さが睡眠に影響を与えている!?
近年その考えがより理解されるようになり、複数の研究により、ADHDと睡眠の長さと質、および(入眠の)タイミングが強く関連していることが示されました。早期教育の風潮が強まる現代は、多くの幼児や小学生が毎日たくさんの課外活動を行っているので、刺激やストレスが多すぎて十分に眠れないのか、あるいは良質な睡眠が取れていないのかということが挙げられています。
ADHDそれ自体が睡眠障害!?
ADHDと誤診された子供達は実際には睡眠不足、不眠症、呼吸閉塞などの睡眠障害のあることが示されています。しかし、もっともパラダイムシフト的な考えは、ADHDそれ自体が睡眠障害なのではないかということです。その考えが正しければ、ADHDの研究法と治療法を根本的に変えてしまうかもしれません。
ADHDの人は眠りに誘うメラトニンが遅れて分泌される
そのトピックに関する最新のデータが、パリの学会で以下のように発表されました。
「一般的に体内時計とも言われる人々の概日リズムを見ると、ADHDの人のメラトニンというホルモン量は、ADHDではない人よりも、夜1時間半ほど遅れて分泌されることがわかりました。その結果、ADHDの人はより遅く眠りに落ち、全体的に睡眠時間が短く、他の身体過程にも影響を及ぼしています。」
昼夜のリズムの乱れ
オランダのアムステルダムにある医大の研究者であるサンドラさんはこう述べています。
「昼夜のリズムが乱れると、体温、動き、食事のタイミングにも影響を及ぼし、それらの変化が ADHD(注意欠陥、多動性障害)につながる可能性があります。その性格(行動)はADHDのように見え、不眠症は生理・心理的症状の結果です。」
睡眠障害の種類と割合
睡眠障害は睡眠不足、不眠症、呼吸障害という3つのカテゴリーに分けられ、その全てが幼児によく見られます。その割合は20~40%にも上ると複数の研究で推定されています。ニューヨークのアルバート・アインシュタイン医科大学のカレン教授は2012年に11,000人の子供を対象に研究を行い、次のように発表しています。「いびきをかいたり、口呼吸をしている、あるいは睡眠中に呼吸が中断する子供は、7歳までにADHDに似た行動を取るようになり、その割合は睡眠障害のない子供と比べて40~100%高い。」
睡眠時間とADHDの症状
最近のインタビューでカレン教授は、睡眠は子供の行動に大きく影響している、ことが証明されていると述べています。ADHDの人は75%もの割合で睡眠障害があり、睡眠時間が短いほど症状が悪化することが過去の研究で示されています。ある論文ではADHDと診断され、睡眠中に呼吸困難のある子供たちが、アデノイドまたは扁桃腺を除去したのち、ADHDの症状を示さなくなったと、ある科学者が発表しました。
幼児の睡眠時間の減少
カレン教授は、多くの幼児(3歳~5歳)が夜11時以降に寝て、朝の8時前に起床しているというデータを知って驚きました。彼らの睡眠時間は9時間以下で、米国小児科学会が推奨する10~13時間の睡眠時間をはるかに下回っていました。
睡眠不足とADHDの症状
ADHDの症状は全国規模で問題になっていて、睡眠不足の症状はADHDの症状と非常によく似ています。フロリダ国際大学で長年ADHDについて研究している専門家のウィリアム氏は、ADHDと誤診された子供の中には、実際は睡眠障害があったことに賛同していますが、それは数千人中に一握りのケースだと言っています。
ADHDと睡眠障害の関連性の度合い
ウィリアム氏が言うには、「ADHDと睡眠障害の関連性は誇張され過ぎている。ADHDは喫緊の課題であり、非常に深刻な診断となる可能性が高い。」 アメリカ疾病管理予防センターによる最新の調査では、4歳から7歳の子供のうち、10人に1人がADHDと診断され、同氏はその判断の大半は正しいと信じています。また、ウィリアムス氏は、確かに睡眠障害は注目に値する問題ですが、それが米国内のADHDの大部分の割合を示すとは信じられないと言いました。
薬の変化
同氏は近年、ADHDと睡眠障害のある子供が増加していることに気づいていますが、それは製薬会社の変動による影響だと述べています。80年代から90年代にかけて、もっとも需要のあった治療法は、4~6時間だけ持続する刺激薬(興奮剤)でした。しかし現代の子供の多くは、12時間も持続する薬を飲んでいます。薬剤に敏感な子供の場合は、真夜中まで疲れないかもしれません。そのため持続効果の長い薬を飲用しているために、より遅くまで起きている子供たちが増えています。それでは収まらず、夜にはより多くの子供が抗うつ薬やメラトニン、抗精神病薬など他の薬を飲んでいます。
参照記事(ワシントンポスト 2017年9月20日)