歯科矯正の可能性と限界(最近のトレンドから)

【第139回ブログ】は、2018年10月から11月にかけての Facebook 投稿をまとめたものです。クリアアライナーが矯正治療のおおよそ半分をカバーできる時代になりました。伴って、治療費も低下する傾向にあります。矯正歯科医はどこに向かうのでしょうか。

【ディスラプターとしてのアライナーによる予防矯正】

ディスラプターとは「破壊者」という意味です。スマホがそうであったように、ビデオカメラ・デジカメ・時計・ボイスレコーダー・電卓などの家電小物が、またたく間に、画面のボタンひとつになりました。アライナーによる早期治療が、予防矯正の流れを変えるかもしれません。

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アラインテクノロジー社の、インビザライン®︎ファーストは混合歯列期のアライナー矯正装置です。上顎のみならず、下顎も拡大できるかもしれません。やり方によっては前方成長も可能となることでしょう。

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これまでのマウスピース型の機能矯正装置や、取り外せる床矯正装置を一気に抜き去るかもしれません。発祥地の米国では、医療保険(民間保険)の対象になるので、実質的な家計の負担は、20〜30万円ですみそうです。

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この程度の負担で、8〜10歳頃の顎顔面成長が図れるのであれば、世界の矯正治療は様変わりすることでしょう。(インビザライン®︎はアラインテクノロジー社の商標です)

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【急速にコモディティー化する歯科矯正】

歯科矯正がコモディティー化する日が、そこまで来ています。全米のショッピングセンターで、インビザライン Invisalign の看板を目にすることが多くなったからです。

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患者さんはお店のスタッフから説明を受け、歯型をレーザースキャンしてもらい、後日、アライナーを歯科医院から受け取ります。お値段もこれまでよりかなりお安いです。

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患者さんの5割はクリアアライナーで治る、簡単な症例であると言われています。しかしこれは、お年頃になれば誰もが矯正治療を受ける、アメリカならではの特殊事情なのかもしれません。

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日本の医療行政の規制は厳しいので、米国のように、ショッピングモールで矯正装置を買う、ようなことは起こり得ないと思いますが、この流れは日本にも影響することでしょう。

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そこで矯正歯科医にチャレンジしていただきたいのは、予防矯正です。6歳と言わず、オギャーと生まれてから、健全な顎顔面成長をマネージメントして、必要に応じてフェーズ1・フェーズ2の矯正治療を施し、20歳まで面倒をみる。

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治療費は定額制で20年の分割払い。そんな掛り付け矯正医の存在が理想と思うのです。患者さんに良し、先生の医院経営にも良し、行政の医療財政にも良し、こんな社会が早く実現することを願っています。

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【ペック先生が寄せた、アイザックソン先生への追悼論文が痛いです】

ロバート・アイザックソン先生が亡くなられ、親交のあったシェルダン・ペック先生が、専門誌 Angle Orthodontist に追悼論文を寄稿しています。「矯正歯科は何処へ」というタイトルの、その中身が痛いです。

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残念なことに産業技術が、私たち、矯正歯科医の思いを乗り越えてしまいました。矯正医の心は装置で満たされ、技術偏重に陥っています。私たちの主体性はどこへ行ってしまったのか。

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そのヒントを、私は70年代の古い文献に見つけました。あの時代、私たちは本気で、不正咬合を予防できると思っていました。Quinn と Rubin は、鼻腔閉塞(鼻つまり)が、顎顔面形態の形成不全につながることを発表しています。

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Murray は、多少の歯列の不揃いは、自然と解消され、また、若干の顔面の前突は、長期安定性に優れていると言っています。多少の不揃いがあっても、口内衛生には影響しないと報告しています。

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しかし、このような話を、商業化されたメディアから聞くことは決してありません。医療というより、産業化してしまった歯科矯正の行き着く先は、どこでしょうか?

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シェルダン・ペック先生の寄稿論文はこちらから。

http://www.angle.org/doi/full/10.2319/0003-3219-88.6.672

【歯を抜かない矯正が増えている理由とは・・】

英国の矯正歯科医がおこなったアンケート調査によれば、ここ5〜10年の間に、歯を抜いて治療する割合は減ったと報告しています。抜歯治療が減った理由は、より魅力的な顔のためが7割、口元の美しさのためが6割です。

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歯を抜かずに治療する判断は、以前と比べて、重なり量が2ミリ増えたと言います。つまり、歯を抜く・抜かないの、しきい値が2mmプラスされました。これは歯と歯の間を、薄いヤスリで削る技術が普及したためです。この歯間削合を採用する先生は5割です。

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一般的な意見として、軽度の不揃いを治したい患者さんが増えた、見た目を気にする大人の患者さんが増えた、そのため相対的に抜歯比率が下がったとの指摘もあります。

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また、上顎を広げることはできても、下顎はなんともならないとの意見もあります。本当にそうでしょうか。この調査報告は、こちらの文献からご覧ください。

https://www.tandfonline.com/…/10.1080/14653125.2018.1517470…

【下アゴの大きさが矯正治療の限界を決めている】

矯正歯科医が学校で習うことのひとつに、「下アゴが治療限界を決める」ということがあります。上顎が継ぎ目を介して頭蓋骨に組み立てられているのに対して、下顎は、それ自体が1個の骨として、筋肉で吊り下げられているからです。上顎は後から大きくできるけれども、下顎は変えられない。

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小さい下顎のために、下の前歯が並ばないとすれば、当然のように小臼歯を抜くことになります。前歯の間をスライスして、スキマを増やすかもしれません。親知らずは、後戻りを防ぐためにも取り出すでしょう。

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後退した下顎に合わせて、上の歯列も後退せざるをえません。噛み合わないからです。当然、上の小臼歯も抜かざるをえません。上顎も下に合わせて小さくなります。舌の落ち着く場所が確保されません。

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6〜8歳からの顎顔面の成長期に、上顎を広げ、前に出すとともに、下顎を育てることがとても大切です。下顎が育たないと、将来の矯正治療が複雑になり、それなりにコストもかかります。

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