育たないアゴをより小さくし、後退させる歯科矯正は、もはや受け入れられない
【第148回ブログ】は、歯科矯正と呼吸障害の問題を再び取り上げています。大事なのはもはや、歯並びより呼吸です。歯並びのために、呼吸を犠牲にするのは許されません。この記事は2019年2月上旬の Facebook 記事から転載しています。
【睡眠時の呼吸障害のグラデーション】
睡眠時の呼吸障害 ( SDB ) について、再び話題にしています。というのも、歯並びの矯正治療をとりまく状況が、この問題によって大きな影響をうける可能性があるからです。
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起きている時はなんともなくても、横になって眠りにつくと、軽いイビキから睡眠時無呼吸まで、その病態はグラデーションです。大人のイビキは病気でありませんが、年齢や肥満とともに重症化する可能性があります。
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またもしも、お子さんがイビキをかいているなら、一度、耳鼻咽喉科の先生に診ていただくことをお勧めします。お口を開けて寝ているようならば、鼻呼吸ができず、アデノイドや扁桃腺に異常があるかもしれません。
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写真は、睡眠時無呼吸の方に処方される、CPAP装置です。強制的に鼻から空気を送り込みます。これにより、呼吸が楽になり、睡眠の質が良くなります。もはや、10人に1人がこの装置を必要とするほどに社会問題化しているのはなぜでしょうか。
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【1980年代には、顎関節症と歯科矯正の関連性が疑われた】
80年代に、顎関節症 TMD を歯科矯正で治すことができそうだと話題になり、多くの研究がなされました。現実は、歯科矯正で顎関節症を改善できるケースもあれば、反対に悪くしてしまうケースもありました。
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近頃の、睡眠時無呼吸 OSA や睡眠時の呼吸障害 SDB の話題はまさに、80年代の顎関節症と歯科矯正の関係性に似ています。
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というのも、矯正治療で上顎の小臼歯を抜いてしまったことが、下顎の後退を生じ、顎関節症に至ったという訴訟問題があったからです。
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同様に、上下小臼歯を抜歯して、顎を後退させたり、歯列を小さくしてしまうことが、呼吸気道を狭め、睡眠時の呼吸障害の原因になっているのではないかと心配されているからです。
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【旅行中に遭遇した2つのシーン】
トランプさんの壁へのこだわりが、公務員給与に影響し、空港のセキュリティーチェックが大混乱するのではと思われました。ダラス空港は思ったよりスムーズでした。
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ふと見ると、CPAP装置をトレーに載せている女性がいます。60代でしょうか。杖を持った男性と一緒です。CPAPのホースがはずれないので、困っている様子でした。
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「それ、CPAPですよね、ご主人のですか?」「いいえ、私のよ、AHI が90以上なの!」「えっ、そうなんですか、そんな風には見えませんけど。」太っているわけでもないので、ビックリしました。旅行に持ち歩いているのですね。
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機内の斜め後ろに座った中年男性は、通路を挟んで隣の女性と、1時間以上話し込んでいます。話題から医療関係のお仕事と思われます。
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その男性が寝入ると、1分ごとに呼吸が乱れます。かなりひどい閉塞性無呼吸 OSA です。胸のあたりがポンプのように、膨れたり萎んだりします。座っていても呼吸が止まるのですから、仰向けに寝たらもっとひどいでしょう。とてもお気の毒です。
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1分ごとに体を揺すって、プアーっと息をします。全く眠れていません。イビキをかく以前に、息が止まっています。見ると、頭と体のわりに、アゴが小さいことがわかります。舌が喉の気道をふさいでいるのでしょう。
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解決策はCPAP装置か、両アゴを切断して前に出すしかありません。下アゴを前に出す歯科装置のレベルではありませんでした。(写真はイメージです)
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【子供たちの睡眠時の呼吸障害となりうる矯正治療とは】
タスクフォース ( Task Force ) とは、いかにもアメリカらしい言い方です。特殊任務のための機動部隊、転じて、対策委員会もしくは特別調査団の意味で用いられています。米国矯正歯科医会 AAO は、子供の睡眠時無呼吸 POSA の問題を、タスクフォースを編成して取り組んでいます。
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弁護士を含む専門家グループが役割を分担し、調査して議論して方針を示す。その成果のひとつが、2019 AAO ウィンターミーティングでした。
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タスクフォースを編成したのは、大きな危機感を感じたからです。そのリスクとは、歯科矯正が子供たちの睡眠時無呼吸の原因のひとつ、ではないかと疑われているからです。
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呼吸気道を狭める可能性のある矯正治療のうち、①歯列アーチを収縮させてしまうこと、②小臼歯や親知らずを抜いてしまうこと、③大臼歯を後退させてスペースを作る方法、④前歯を引っ込めることなどが、マイナスに作用するのではと心配されたのです。
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【下顎を前に出すことで改善される睡眠時無呼吸ならば・・】
睡眠時無呼吸は5人に1人が悩む時代です。治療は CPAP 装置もしくは、アゴを前に出すしかない。下アゴを前に出す装置を歯医者さんが作ってくれます。CPAP ほどではないが、下顎前進装置 MAD も確かに効果があります。
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とすれば、アゴを後退させている今の矯正治療に、素朴な疑問が湧いてきます。今も行われている、①歯列を縮める ②歯を抜く ③臼歯を後ろに動かす ④前歯を引っ込める などは、アゴを小さくするか後退させます。
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それら無しに矯正治療はできないと言われるかもしれません。その通りです。でも、それが6歳からのチェックと、8歳頃からの上顎拡大ならば、上記の治療をせずにすみます。
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筋機能療法 MFT を含め、成長期にアゴを育ててあげることにより、生涯の睡眠時無呼吸 OSA を予防できます。お子さんの顎顔面成長に詳しい矯正医にご相談ください。
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