30年後に再評価された偉人たち:矯正と睡眠の関係
【第149回ブログ】は、時代の要請によって再び舞台に登場した、レジェンドたちの話題です。生え変わり時期からの歯科矯正が、上下顎の成長を促進できると訴えたマクナマラ先生と、睡眠医学の始祖、ギルミノー先生のお話です。この記事は、2019年2月中旬の Facebook からの記事を転載しています。
【終わった人と思われていたマクナマラ先生】
舘ひろしさんの「終わった人」を見て、90年代のマクナマラ先生を思った。生え変わり時期からの早期矯正の重要性を訴えたが、時代が追い越してしまった。矯正専門医の関心はもっぱら、ストレートテクニックだ、それダイレクトボンディングだの、超弾性ワイヤーだのと、技術革新の波に乗り遅れまいと必死だった。
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あの時代、混合歯列期(乳歯から大人の歯に生え変わる時期)からの治療を訴えた先生たちは、忘れ去られた。そう、「終わった人」として葬られた。矯正は大人の歯に生え変わってからでも、充分間に合う。だったら、手間暇のかかる早期矯正はやめておこう。
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しかし今、舞台は再びの登場を願っている。マクナマラ先生は「何をいまさら」という雰囲気で壇上に立った。何がマクナマラ先生を主役にさせたのでしょうか。それは、子供たちのイビキであったり、睡眠時無呼吸 POSA であったり、とにかくマトモにアゴが成長していないのではないかと、多くの親が、教師が、小児歯科医が気づき始めているからです。
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マクナマラ先生の医院ウェブサイトはこちらから
https://mcnamaraorthodontics.com/early-treatment/
【睡眠医学の権威、ギルミノー先生が今もっとも気になること】
睡眠医学の分野で、スタンフォード大のクリスチャン・ギルミノー先生を知らない人はいません。もともとは神経学分野から睡眠研究に入りました。そのギルミノー先生が、ご自分でも驚いています。
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今なぜ、私が注目されるのか? 睡眠研究を始めてから40年経った今になって、これほどの脚光を浴びるとは想像だにしていなかったと言います。
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それほどに人類は眠れない問題に直面しています。そして、睡眠障害がもたらす経済的損失から、米国政府がここ2〜3年で対策に舵を切ったからです。
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そんなギルミノー先生の最新の研究テーマは、「アゴと睡眠障害との関係」です。成人のみならず、子供さんの睡眠時無呼吸 POSA : Pediatric Obstructive Sleep Apnea の問題にも精力的に取り組んでいます。
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上顎のみ拡大、もしくは上下顎とも両方の拡大によって、AHI (無呼吸・低呼吸指数)の大幅な改善が見られました。先生は論文調査をもとにこの点を主張しています。この分野の研究が、大きな広がりと深みを増すことが期待されます。
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【ギルミノー先生の発表が、スタンディングオベーションを受けた意味】
私には、スタンディングオベーションの意味が良く分かりませんでした。自分の英語力が足りなかったのか、自分が当事者でないからなのか。主催者発表によると参加者は 1000名ほど、うち実際に小児の睡眠時無呼吸の治療にあたっているドクターは、200〜300名との報告がありました。
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顎成長と睡眠障害の関係に関心を寄せる、スタンフォード大のクリスチャン・ギルミノー先生のレクチャーは、確かに素晴らしいものでした。新しい視座にあふれ、エピデミックへの警鐘を随所に感じました。日本にお招きして、日本の先生方にもお聴きいただきたい内容です。あるいは既に来日講演されていたのかもしれません。
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発表内容は、睡眠障害や無呼吸症は、幼児期に形成されるというものです。従って、早期治療と早期介入は絶対必要という主張です。しかし、その原因が乳児・胎児にまで及ぶとあっては、「神のみぞ知る」ということになり、その対策となるとフォーカスを絞りきれません。
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矯正治療は睡眠時無呼吸の原因ではない、と強く主張するドクターの発表に無反応だった聴衆が、ギルミノー先生にスタンディングオベーションを送ったには、「それが聴きたかった」という強い感動があったからだと思われます。しかし、それにしても、ギルミノー先生はかなり主催者側に気を使っていた感じでした。
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(あとがき:クリスチャン・ギルミノー先生は2019年7月9日、転移性前立腺がんのためお亡くなりになりました。80歳でした。先生の魂の安らかなることを祈っています。)
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【オブライエン先生のブログにみる、AAOウィンターミーティング報告】
ケビン・オブライエン先生のブログに寄稿してくれたグレッグ・ヨルゲンセン先生は、米国ニューメキシコ州で開業している矯正専門医です。ヨルゲンセン先生は AAO (米国矯正歯科医会) の渉外担当メンバーのおひとりです。睡眠時無呼吸に対する AAO のスタンスを理解することができます。
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矯正専門医は小児の睡眠時無呼吸 POSA を治療することはできない、と結論づけています。世間では、矯正治療が睡眠時無呼吸を誘発すると騒がれているようだが、そのような確証は無いと言い切っています。この問題がこれ以上炎上しないよう、一致団結して事に当たらなければならないと訴えています。
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ヨルゲンセン先生が寄稿した AAO2019ウィンターミーティング報告の概要を以下のサイトにまとめています。